末永幸歩さん著の「13歳からのアート思考」を読んだので、感想を書きます。
初版が2020年2月の比較的新しい本です。筆者の末永さんは現役の中学高校の美術の先生だそうです。
アートに関する本だというのはタイトルから想像できると思いますが、「13歳からの」とあるので小中学生向けの本なのかなと思う方もいるかも。
でも決してそんなことはありません。
大人の方でも大丈夫、と言うより、大人も十分に対象読者に入っています。
本書が言いたいこと
中学生以降に失いがちなアート思考を思い出し、『自分だけのものの見方・考え方』ができるようになろう。
1文で書こうとすると難しいですね…。
本書をおすすめする人
- 中学生以降、美術の授業が面白くないという学生の方
- 学生の頃の勉強と社会人になってからの仕事のギャップにモヤモヤを抱えている社会人の方
- 今の生活にはそれなりに満足してるけど、自分の人生を生きている感じがしない、このままでいいのかな?という大人の方
- 自分の子供にはこれからの激動の世の中をしっかり生きてほしいと思う親の方
本書の構成
本書は、中学生以降に失いがちなアート思考を思い出させてくれる一冊です。
6人のアーティストとそれぞれの作品を通じて、アート思考を学び、体験できる構成になっています。
大まかに言うと、各章、簡単なエクササイズから始まり、テーマとなる作品の紹介、その深堀、筆者の解説、補足という流れになっています。
途中、中高生の方の意見も取り入れられているので、学校で中高生に混ざって授業を受けている感覚を味わえるようになっています。
各章はそれぞれ単体で読んでも、その作品がアートの歴史に与えた影響などを教養として身に着けることができます。ただ、最初から続けて読むことで、アートの変遷やアート思考の体験がより深くできるようになっています。元々、本書の目的は、単純に知識を入れるところにはないようです。
本書の概要・感想
13歳からのアート思考
12歳までは誰しもが持っているアート思考が13歳頃からは失われてしまう傾向にあります。「それを取り戻してみませんか?」ということが本書では書かれています。
13歳というと、ちょうど中学1年生の年齢ですね。
筆者の末永さんの調査によると、小学生から中学生になる際に、最も人気が急落する教科は美術(小学校では「図工」だったもの)なんだそうです。
「図工」では自分の好きなものをつくることができたのに、「美術」では作品を作る技術を競ったり、過去に作られた作品や美術史などの知識の習得に偏重するようになることが原因だと末永さんは分析しています。
この過程で、多くの人がアート思考を失ってしまっている、ということのようです。
「じゃあ、アート思考(Art Thinking)とは何なのか?」
「アーティストのように考えること?」
「じゃあ、アーティストとは何なのか?」
「芸術作品を生み出す人?」
「じゃあ、芸術作品って何?」
「・・・」
本書を読むことで、これらの問いについて、自分なりの答えを出すことができるようになるはずです。
本書では、「アートという植物」を取り上げています。
本の中では、イメージ図が掲載されていますが、種から根が出て花が咲いている、そんな普通の植物を想像いただくとよいと思います。
植物というと、地上に咲く花の方に目が行ってしまいがちですが、本書で注目しているのはそちらではありません。
実はこの「アートという植物」、地上から見えない根がたくさんあり、しかも1つ1つが長くなっています。
人は誰しも自分の中に、物事への興味・関心・疑問などが詰まった種を持っている。
そういった興味・関心に従い、それらを突き詰めて考えていくことで、根がどんどん伸びていく。場合によってはたくさんの数の根が伸びていく。
それは外からは見えないものだけど、根を伸ばしていく過程で、自分なりのものの見方・考え方を身に着けていく。地上に咲く花は、あくまでその結果だということです。
本書では、自分の持っている種を育て、根をたくさん、長く伸ばしている人、それをアーティストと言っています。花は作品に該当するわけですが、その意味では、アーティストが生み出す作品は副産物のようなものです。
本書では、上記のことをさらに具体的に説明しています。
アーティストは、その活動の中で以下のことをしているとのことです。
①「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
②「自分なりの答え」を生み出し、
③それによって「新たな問い」を生み出す
13歳からのアート思考(末永幸歩)p.13
これって、アーティストに限らず、私たちが生きる中、仕事をする中でも大切なことではないでしょうか?
試験問題を解いて答えを導く、元々正解用意された課題に立ち向かっていた学生時代と比較して、社会人になってからは、そもそも正解がない課題に立ち向かうことが多くなってくると思います。何なら、課題そのものを見つける必要もあります。
自分の中にある種を育てて根を伸ばし、アート思考を身に着けていくこと、大切ですよね。
一方で、根を伸ばすことをせず、花を作ることに労力を注いでしまっている人もいます。
本書ではそういう人を「花職人」と言っています。
気づかないうちに「他人が定めたゴール」に向かった手を動かしている
13歳からのアート思考(末永幸歩)p.36
人達のことを指しています。こういう方、結構多いようです。考えてみたら私もですね(苦笑)
おそらく、会社員などをしている世の中の多くの大人は「花職人」になってしまっている人も多いのではないでしょうか?
多くの人がそうであるように、「花職人」がダメだというわけではないと思います。事実、しっかり生活できていたり、成功を収めているように見える人も多いので。
最後に
いろいろと書いてしまいましたが、本書はやはり実際に中身を読むことで学び・気づきを得られるものだと思います。興味のある方は、是非手に取ってみてください。
あなたは「アーティスト」として生きるか、「花職人」として生きるか、どちらを選びますか?
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